2012年1月29日 (日)

ダーツとプリーツとピンタックとギャザーの違いがわかるか?

移動の途中に見始めた「スタイリスタ」というアメリカのテレビドラマ。「サライ」前編集長の河内さんが、絶対面白い!とのお墨付きで送ってくださった(ありがとうございます!)のだけれど、第2話まで見て、完璧にハマる予感。アメリカとカナダで放送されたのが2008年らしいが、古い感じはしない。

「ELLE」編集部で編集者として働きたいという野望を抱く若い人が11人。毎回、課題が出され、一人ずつ「落第」者が脱落していくという、ファッション界の熾烈なサバイバルドラマ。「プラダを着た悪魔」の世界を、さらに具体的に、生々しく、リアリティ番組にしてみせた感じ。H&Mの服がたくさん出てくるし、勝ち残った人にも一年間H&Mが提供されるというから、スポンサーとしてこの会社がついてるのかな?

課題がまた興味深くて、たとえば、30分以内に「ニットでウォーヴンで、エンパイアウエストでピンタック、セットイン・スリーヴでダーツがあってファネルカラー」のコーディネイトを作れ、とか。なんじゃそれ?と言ってるようではファッション誌の編集者にはなれないのですな(笑)。

グループごとにつくる編集ページの審査もスリリングで、およそあらゆる雑誌の編集者はこの審査の場面だけでも見るべきなんではないか?(具体例を通じた、刺激的な勉強になる)と思ったりもして。

おそろしいのは、このコンペティターが全員、同じ宿舎で暮らし、むき出しの敵意や悪意もさらけ出しあうこと。ドラマだからだとは思うけれど。毎回、脱落者が去っていくシーンで終わるというのも、後味がよいわけではない。

でも、そんなこんなの苦さも含めて、続きを見ずにはいられなくなる。

Stylista

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2012年1月28日 (土)

「かっこよくない」制服の魅力

矢口史靖監督「ロボジー」。丁寧にやさしく作られた、ウェルメイド系ドタバタコメディ。ところどころご都合主義で、予定調和の笑いの世界ではあるけれど、そういう世界にはそういう世界なりのよさがある。不快なところがどこにもなくて、とりわけ木村電気のダメダメ窓際社員3人に癒されました。色気を徹底的に配した木村電気の制服がなんともいい味わい。「かっこよくない」制服のよさというものを再認識。DOMO ARIGATO。

Robojie

ロボット爺さんの五十嵐信次郎ってミッキー・カーチスだったのですね。主題歌のMr.Robotをカバーしているのが「五十嵐信次郎とシルバー人材センター」。なんともニクい感じ。いま朝日新聞も「シルバーモデル」の記事を連日掲載している。芸能界やモデル界って、潜在的なシルバー人材の宝庫なんだろうな。

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2012年1月22日 (日)

「俺は空洞」

不穏でむきだしの感情の嵐に翻弄される4時間……。ぐったり疲れて、放心。

園子温「愛のむきだし」。

一晩経って翌日。「ヨーコ」「ユウ」と叫ぶように互いの名前を呼びあう最後のシーンの激しい美しさを反芻していた。あの段階にいたるまでの長大な4時間があるからこその、深い感慨。カタルシスに至るまでの長い回り道という意味では「愛と誠」を思い出したし、相手の名前を呼ぶことが最強の求愛にして返答であることを思い出させてくれた点では、「卒業」のラストシーンを連想した。

まだまだ魂にひっかかってるようなシーンはたくさんあるのだけれど、文字にした途端に感情が整理されてしまいそうなのがコワい。定義づけ不能の感情が落ち着かずに暴れたまま。「むきだし」体験ビフォアとアフターで、ぜったい違う人間になっている…。

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2012年1月 8日 (日)

ウィンザー公とジョージ6世の、隠された弟

メンズファッション史のスター、ウィンザー公(=エドワード8世)と、その弟ジョージ6世(「英国王のスピーチ」のモデルになったあの方ね)の話は、映画効果もあってもう広く知られるようになったが。

さらに彼らの下に弟がいたとは!

名前はジョン。プリンス・ジョン。ジョージ5世とメアリ王妃の間に誕生し(1905年)、13歳で夭折(1919年)。

プリンス・ジョンは自閉症があったうえに癲癇(てんかん)もちで、それゆえに、家族から(世の中から)隔離されて乳母ララに育てられていた。母には愛されずに。

知らなかった英王室の事実…。

そのあたりのことが、丁寧に、繊細に、描かれたテレビドラマby BBC、'The Lost Prince'(「プリンス 英国王室もうひとつの秘密」)。

180分と長く、前・後編に分かれている。2005年のエミー賞最優秀作品賞・衣装賞・美術賞受賞作。時代考証がきっちりおこなわれていて、婦人参政権運動のリアルな活動ぶりがちょこっと挿入されていたりする。なによりも、エドワーディアンの衣装や習慣やインテリアがきめこまかく優美に再現された、動く美術本のようなドラマ。(芝生の上ではなく土の上を歩くときには靴をはき替えなくては、と主張するご婦人に苦笑。)

静かで淡々とした語り口なので、英国史に関心がない方には多少退屈かもしれないが、最後まで辛抱づよく見るとじわりと感慨がこみあげてくる。

こういう映画を作らせる(とくに差し止めはしない)英王室のオープンネスと寛容にも、敬意を覚える(ジョージ5世が無能な印象を与えるように描かれているし)。日本の皇室に類例があったとしてもまずドラマ化はムリだろうな……。

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2012年1月 3日 (火)

Once in a Blue Moon

たいへん遅まきながら「ステキな金縛り」。タイトルはセンス悪いと思ったが(こんな陳腐な形容詞をタイトルにつけるかな?)、実際見てみると、近年これほど充実した映画があったろうかと思わせるくらい圧倒的にすばらしく、モア・ザン・パーフェクト。三谷さんの才能に心底敬服する。

Kanashibari

フランク・キャプラの映画まで生かす細部、骨太なストーリーライン、芸達者な役者たち(主役級の方々も楽しそうにチョイ役)の演技、笑わせて泣かせる脚本。音楽に衣装(ヒロインがださい靴下ばきのどた靴→自信をもつとハイヒール、中井貴一の「できる」スーツ、ほか)。すべてにいたるまできめ細かく神経が行き届いていて、とても気持のいい円熟の仕事をみせていただきました。映画の中で「死ぬ」瞬間にこれほど笑ったのは、はじめてです(アベヒロシさま)。

主題歌の"Once in a Blue Moon"は、深津さんが歌っていたのね。とてもいい。と素直に言えるよさがある。

http://www.youtube.com/watch?v=KyeLReoRgT0

帰途には当然のように、シナモンティーを飲んでいく(笑)。

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2012年1月 1日 (日)

「微笑んで。たとえ心が引き裂かれていても」

◇本日(元旦)付の日本経済新聞、第四部15頁、広告欄に、男の白いシャツをめぐるエッセイ「最低でも無難、最高でも無敵」が掲載されています。

昨年、"The Nikkei Magazine" に掲載された、「Maker's Shirt 鎌倉」さんとの仕事がおかげさまにて好評で、レイアウトを変えて再掲載されました。機会がありましたら、ご笑覧ください。

元旦付なので、仕事人間にとってはちょっと縁起がよくて嬉しい感じです。関わってくださったすべての皆様、ありがとうございました。

◇おこさまサービスのつもりで観に行った「もののけ島のナキ」。想定外にすばらしくて、笑い転げつつも最後はナミダナミダ……。(friends、なんてタイトルにつけるのは頼むからやめてください)

最愛の人を再び得る幸せの陰に、失ってしまった埋めがたい哀しみあり。哀しみの余韻がしばらく尾を引く、ぐっとくる映画だった(私はこういうのにヨワいです)。埋めがたい欠落感に苦しんでいる人間には、共感してナミダすることで、若干の癒しにもなるのかもしれない。グンジョウくんがかっこよすぎる。

Mononokejima

映画が始まって間もないころ、揺れが大きめの地震があり、「震度4」ということで、館内点検のために15分ほど上映がストップしていた。新年だからといって地震の恐怖を忘れてはいけない、という天からの警告のように受け止める。

エンドロールで流れる"Smile" (by ミシア)。 さまざまな思いがこみあげてきて、沁み入るというかナミダをいっそう誘う歌詞だった…。

Smile though your heart is aching

Smile even though it's breaking

When there are clouds in the sky

You'll get by

If you smile

With your fear and sorrow

Smile and maybe tomorrow

You'll find that life is still worthwhile

That's the time you must keep on trying

Smile, what's the use of crying

You'll find that life is still worthwhile

If you just smile 

……

http://www.youtube.com/watch?v=b2q_x4wIz80

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2011年12月17日 (土)

「真実だけで人は満足しない。幻想を満たさねば」

アルマーニによるブルース・ウェインのスーツがどんなだったかを確認したかったのと、映画好きの友人が「人生観を変えられてしまったほど衝撃を受けた」とかなんとか言っていたので、もう一度見直してみた。「ダークナイト」。

Dark_knight_bruce_looking_at_suit

スーツ(バットマンスーツじゃないほう)に言及される場面はたった一か所だったが(3つボタンなんて今どき流行りません、とか)、主張しすぎずブルースに威厳とセクシーさを与えていた。皮肉なことだが、「どこのブランドのスーツ」いう特徴がわからないことが、やはり良いスーツの絶対条件。

ジョーカーとの戦いとは、ぎりぎりの状況における人間性との戦い。光の騎士が、絶望を味わって、悪に転落する。人間なんて一押しで悪に染まるとうそぶくジョーカーの勝ち。

恐怖のさなかにパニックになれば、倫理などかなぐり捨てて、エゴまるだしで行動するような弱い一般市民が、最後のギリギリの段階で良心に従う。ジョーカーの負け。

トータルで、ジョーカーとの勝負は、引き分け。

バットマンは、いかなる状況でもモラルを捨てず、エゴなどとは無縁で、正義のためなら汚名さえ引き受ける。高潔すぎて孤高の哀愁が漂うバットマン、クリスチャン・ベイルの、半分、吐息を含んだ低く重い静かな声が、闇の中に溶け込むように響いていく。

「真実だけで人は満足しない。幻想を満たさねば。ヒーローへの信頼は報われねば」

バットマンはジョーカーを必要とし、ジョーカーもバットマンを必要とする、お互いの存在があるからこそ「能力」を最大限に発揮できるという、胸を引き裂かれそうなほどのロマンチックな(両者の関係はロマン主義的だ)皮肉がずっと尾をひく。

実際、この映画は産業資本社会にアンチテーゼを唱えるロマン主義の映画だ。悪党の目的は「金や復讐」だけではなく、「人間の本性をえぐりだして見せる」というもっと壮大なゴシック・ロマン的な目的でありうるということ。「カネ=成功」という発想で規格にちんまりとおさまり、矮小になってしまった人間たちへの挑発でもある。

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2011年12月15日 (木)

「コーヒーをはさんだ会話なんてごめんだわ」

移動の合間にちょこちょこ観ていた「マッドメン」シーズン4、完。最後の13話、ドン・ドレイパーが、とりまく女性たちに、頂点からどん底までのさまざまな思いを味わわせる。

急浮上してきた秘書メーガンに、急スピードで恋におち、プロポーズ。「君は不思議だ。こうして一緒にいると、好きな自分でいられる」「毎朝、君の隣で目覚めたい」「いままでのことは何もかも、君を知るために起きたんだ。だからもう十分」。

天才クリエイティブディレクターであるはずのドン・ドレイパーが、こんな陳腐なセリフを言うのか ?!?  恋の絶頂にある人はみな特別な幸福に酔いしれ、ものすごく陳腐なセリフをいうものだ…という脚本家の皮肉なのかなとか、あれこれ深読みをしてしまった。(でもメーガンには絶頂の幸福感を与える)

そして愛人のフェイには、電話越しに「好きな人が出来た。予想外だった」と伝える。この冷酷。ドン・ドレイパーはやはり冷酷でなくてはね。「コーヒーでも」と言われた時に事態を察知するフェイのセリフ、「コーヒーをはさんだ会話なんてゴメンだわ」がいい。(フェイには地獄の苦しみを与える)

会社の危機を救ったペギーは、ドンの婚約のどたばたに紛れて正当に評価してもらえない。ジョーンとともにタバコをふかしながら「仕事に幸せを求めてもムダよ。ウソばっかり」と苦笑しあってるシーンが、じわっと共感を呼ぶ。(ペギーにはシニカルな諦念を)

元妻ベティ(完璧な家庭の幸福を求めれば求めるほど、だんだんヒステリックで狭量で悲劇的な女になっていく)には、事実を淡々と伝える。「よかったわね」「無理しなくていい」の元夫婦の会話が苦い。ふたりは別々の出口から去り、シーズン4が終わる。(ベティには現実のシビアな苦みを)

ジョーンは結局、夫不在の間に関係ができたロジャーとの子供をひそかに生むことにしたこともちらりと明かされる。

あ~この苦い後味がたまらない。あとになって、いろんなシーンが、現実と重なり合って、みぞおちのあたりにじわっと効いてくるのだ。

シーズン5(日本語版)の早急なリリースを熱望。

Madmenseason4promo

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2011年12月 4日 (日)

「あなたなしの千年よりも、あなたとともにいる一瞬を選ぶ」

IMAX3DでHappy Feet 2. おこさまサービスのつもりであまり期待していなかったが、予想に反してかなりおもしろかった。

Happy_feet_two_poster

巨大地震で氷山に囲まれ、取り残された皇帝ペンギンの群れを、ほかの種族たちが協力して救う、という物語。もちろん、人間世界への想像がうながされるのである。種族を超えた友情。食物連鎖。進化。大国のウソ。人間のヘルプの偉大さと限界。家族愛。男女間の求愛。自分ができる小さなことに気づくことが大きな貢献になるということ。とにかくいろんなメッセージが、圧倒的に美しい映像でてんこもり。それを軽快なダンスと音楽にのせて。

フィールグッド(悪人はでてこないし)なジコケイハツ系&アース礼賛系っていう見方も当然できる。"If you want it, you must will it.  If you will it, it will be yours. (願えば叶う)"っていうセリフも繰り返し出てくるし。でも、細部のひねりが効いているうえ、進化論の話なんかもでてきてオトナも十分に楽しめる。とにかく映像が吸い込まれるように美しいので、ひたひたと心が潤うように癒される。現実がこんなにシビアで落ち込みがひどいときには、このくらいの優しさがあるほうがいいのかもしれない。

「適応か、死か」

「危険じゃなくて、試練よ」

「食物連鎖の底辺なんてイヤだ。オレはアタマのついたものを食ってやる」

「君のいないあっちの世界で千年生きるより、こっちの世界で君といられる一瞬を選ぶ」

などなど、セリフも「名言集」みたいな感じ。良くも悪くも時流をとらえた映画。

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2011年11月26日 (土)

「完璧な一杯」か「人の心を動かす一杯」か

読者の方に勧めていただいたのが、マンガ版の「バーテンダー」。比べてみるのも一興かと思って、まずはこちらを大人買い。ドラマ版の「バーテンダー」。ネイルや移動や待ち時間に、全8話完。

「マッドメン」の、大人の目配せ風なシブい演出にすっかりはまってしまっている身には、このドラマのわかりやすすぎる演出がどうも子供っぽく感じられてしかたがなかったが、相葉雅紀の魅力的なバーテンダーぶりに、それもさほど気にならなくなった。

流れるような、でもメリハリのある、相葉くんの美しい所作に、毎回惚れ惚れ。カクテル道は茶道にも通じるところがあるのかな。すべての動作に意味があって、ムダがない。一つ一つ丁寧におこなわれる作業、そのプロセスを見守ることもまた、「カクテル(茶)を味わう」ことに含まれるらしい…。美しいカクテルが作られていく過程そのものに、その都度ドキドキさせられる。「どうぞ」と言って客にグラスをさしだすときの相葉くんの慎ましい自信にあふれたさわやかな笑顔は、実際にカクテルを飲まなくても十分「魂の薬」になった(笑)。

毎回、客の悩みや問題をカクテルを通して解決していく、というお話もなかなか楽しかった。「神のグラス」にふさわしい酒が、「すべての人に等しく完璧な一杯」なのか、それとも「目の前の、絶望している人の心を救う一杯」なのか、という問いかけは、他の職業にも通じる話。「一生をかけた仕事に背を向けるということは、一生を放棄するに等しい」「自分に足りないものを探すよりも、自分がお客様に何ができるのか、身を削って考えろ」というセリフもまた。

たくさんの印象的なカクテルが登場したが、やはり究極は、'XYZ'。「終り」のカクテル。終わりを受け入れるからこそ、新しい気持ちで前を向ける。終りのカクテルは、始まりのカクテルでもある。なんだかいろいろ重ね合わせてしまって、眺めているだけで泣けてきたグラス。

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