2011年7月13日 (水)

チェルノブイリのスカーフ

12日の次世代産業ナビゲーターズフォーラムには、もう一つ、重要な講演があった。京王プラザホテル内・プラザ30階クリニック副院長で内科医の土井里紗先生による「放射性物質に負けない生き方」。こちらも大きなテーマであり、できれば少しでも多くの人にお届けしたい情報でもある。土井先生は、素人にもわかりやすく、数値や図表をまじえてとても丁寧に解説してくださった。以下、概要をメモ。

・「基準値」などと聞くと、基準以下なら安全なのかと錯覚してしまうが、放射線物質はどんなに低線量でもDNAに損傷を与え、有害な影響を与えうること、リスクはゼロにならないことを、まずは知っておきたい。

・なかでも、放射線物質が細胞に直接ふれる内部被爆は、リスクが1000万倍になる。

・混同してはいけないのは、自然界の放射線と人工放射線。自然界の放射線物質は自然に体内から排出されるが、人工放射線物質は体内で蓄積され、濃縮される

・現在、暫定基準値を定めているICRPは、内部被曝を過少評価している。そもそも、たった一つの細胞の損傷でも危険なのに、ICRPはその点をまったく無視して体内全体に広げてリスクを想定している。ICRPは原子力をサポートする立場にあり、ICRP基準で考えるのは、かなり危険。この基準で無視されている被曝が、実は相当ある。そのうえ、現在、日本で定められている基準の数値は、世界の基準と比較しても、驚くほど高い。(このあたり、すべて豊富なデータをもとに説得力をもって示していただいたが、ここでは数値をパスして概要のみ記します)。つまり、国の発表する暫定基準値は、安全ではない

・国はどうやら経済優先で、汚泥肥料の流通をも許しており、それがすでに全国に広まっている可能性がある。とすれば、日本全土が放射能に汚染されている危険がある。(牛肉でさえ、看過されているのだ……)

・であれば、どうすれば私たちは放射線物質から身を守ることができるのか? まずは答えを言ってしまうと、水素である。

・老化の原因、病気の原因になるのは、活性酸素、ヒドロキシラジカル。活性酸素を増やす元凶として、ストレス、タバコ、過度のアルコールなどが知られているが、ほかならぬ放射線物質も活性酸素を出すのである。放射線物質が体内に70%存在するH2Oに反応して、ヒドロキシラジカルを発生させる

・抗酸化物質としては、ビタミンACE、カルシウム、亜鉛、ポリフェノール、カロテノイド、セサミン、サポニン、Q10などがあるが、強毒性のヒドロキシラジカルを消去できるのは、水素のみ。水素は、ヒドロキシラジカルを選択的に消去する。

NASAも、宇宙飛行士たちの放射線排除に、水素療法を用いている。水素水接種、または水素を吸引する療法である。

・・・・・・というわけで、水素の摂取が放射線物質の危険から身を守る手段の一つであるということを知った。少なくとも、水素を摂取することは、生活習慣病の対策にもなる。

水素水のレンタルサーバーなども出てきている。かなり高価である……。あおったりするつもりはない。でも、知っておくべき重要な情報の一つとして、ぜひみなさんにお届けしたい。各自の行動を決める判断材料の一つとしていただきたい。

講演のあとに、宮内さんが紹介してくださったエピソードが鮮烈に印象に残る。当フォーラムでも講演された山本寛斎さんから直接聞いたお話として。寛斎さんは、福島の事故の後、すぐにチェルノブイリを訪問したそうである。その地で寛斎さんの目にとまったものは、20代の多くの若い女性たちの、首に巻かれたスカーフ。甲状腺の手術の跡を隠すために、女性たちはスカーフを巻いているのである。この事実は大きくは報道されない。なぜなら、それが報道されてしまうと、縁談に支障が出るから。当のチェルノブイリの人たちが、被害の大きさを「知られたくない」と言っているのである。このジレンマに胸がしめつけられる。

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2011年7月12日 (火)

「省エネは回収できる投資である」

宮内淑子さん主催の第130回「次世代産業ナビゲーターズフォーラム」に参加。メインの講演は、小宮山宏さんによる「日本『再創造』-『プラチナ社会』の実現に向けてー」。

小宮山さんは東京大学総長として大学の改革をばりばり推進した方で、現在は三菱総合研究所の理事長。日本の再生に向けて、具体的なデータを豊富に示しながら、くっきりきっぱり、日本が向かうべき方向のビジョンを示してくださった。情報量が圧倒的に多いうえ、内容もかなりハイレベルだったので、私の乏しい理解力が及んでいない部分もあったかと思うが、以下、概要のなかでも、なるほどと思った部分をランダムにメモしておきます。

・日本は2050年までにエネルギー自給率70%をめざすべき。そのために省エネ&創エネが必要だが、まずは省エネ。エネルギー効率を高めることで、かなりの省エネができる。個人が日々の暮らしのなかでできるレベルでいえば、「窓ガラスを二重にする」「冷蔵庫を買い替える」(日本の冷蔵庫のエネルギー使用量はこの20年で5分の1になっている。ただちに買い替えを!)「照明をLEDに変える」「太陽電池を設置する」「ハイブリッド自動車にする」「ヒートポンプ式給湯器エコキュートやエコファーム)を導入する」(給湯をこれでおこなえば、ガスの無駄がなくなる)。これだけでずいぶん省エネに役立つとのこと。最初は投資が必要だが、時間軸のなかでみるとかなりおトクで、投資はすぐに回収できる。実際、小宮山邸は、このような省エネに向けた改革をして、81%のエネルギー削減に成功している。12年で投資が回収できる計算になるという。小宮山さんの名言―「省エネは回収できる投資である」。

・上記のことは建築基準法を変えて「一重ガラスを禁止」にするとか、冷蔵庫などの機器買い替え促進のための消費制度を作るなりして、とにかく積極的に推進していくべき。じゃないと、このままではカタストロフが起きる。総体として2050年にはエネルギー効率が三倍に高まってることが妥当というか理想。

・林業を復活させ、バイオマスエネルギーを活用せよ。

人工物は飽和する。20世紀は「普及型の需要」(車、家、テレビ、新幹線)があり、高度成長も可能であったが、それはいったん普及してしまうと、飽和する。21世紀には、「創造型の需要」を作り出さねばならない。創造型需要、すなわち内需を生み、雇用を創出するような需要である。個人レベルで考えても同じことが言える。すでにモノはすべて所有している。衣食住が足りてしまっている。で、「私はいったい何がほしいんだろう?」という問題が生まれるのが21世紀。ここに産業が生まれるヒントがある。

・幸せな加齢のための五条件。「栄養」「運動」「社会との交流」「柔軟性と好奇心」「ポジティブな考え方」。この5つがそろうと、人間は幸福に歳を重ねていくことができる。

・20世紀には「坂の上の雲」をめざすモデルが有効だった。国が主導し、産業を導入し、GDPを上げることを目指してがんばることができた。だが。21世紀に入ってみると、「雲に入ったら霧だった」!先が見えない。今、目指すべきはプラチナ社会(=エコロジカルで、高齢者が参加し、人が成長し続けていくことができるような社会)である。市民主導で暮らしをよくしようとすれば、新産業が興る。結果、国も強くなっていく。

・市民や地方自治体が、ビジョンを共有したそのうえで、各自の改革を、多少強引でも進めていくべき。国の顔色をうかがうな。

ほかにも有意義なお話をたっぷりうかがったのだが、メモしきれない。より詳しく正確なお話は、小宮山宏さん最新刊『日本「再創造」』を! エネルギー問題、高齢化社会問題、幸福論、地方自治の問題、産業の問題、知識の構造化問題などなど、それぞれの関心に応じて響くところが必ずあると思われる。解決すべき問題が山積する日本だが、ビジョンを共有し、そこに向かって各自がそれぞれの立場で解決策を模索することが義務であり、権利でもある、ということをパワフルに説いていただいた。感謝。

ちょっとした脱線話も面白かったのだが、なかでも、グラフを書くときに横軸と縦軸の単位を変えてみると、グラフの形がまったく変わるという話。車体重量を横軸にとり、燃料消費量を縦軸にとると、きれいな比例直線ができる。「原点を通る直線は美しい」という小宮山さんの決めゼリフ、ほかでも応用可能だなあと納得(笑)。

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2010年12月16日 (木)

ゆで蛙になるか、黄金期のヒーローになるか

14日火曜日に参加した、宮内淑子さんオーガナイズによる第124回次世代産業ナビゲーターズフォーラム。講師は(株)日本総合研究所 副理事長の高橋進さんで、テーマは「2011年内外経済の展望」。

内容がぎっしり、みっちり詰まったお話&質疑応答で、聴いたことを全部きれいに整理してからアップしようと思っていたら、いつまでたっても終わらない(苦笑)ので、以下、個人的に強く印象に残ったことのみ、メモ。高橋さんのお話はもっと専門的で複雑高度であった。経済ど音痴の私にわかったのはこの程度という、かなーり偏りのあるメモである。

・<世界経済の展望> 金融危機の後遺症がまだ尾を引き、低迷を脱するには時間がかかりそう。先進国がおこなっている長期にわたる金融緩和が、ムリな投機マネーとなり、それが後進国に不健全なバブルをもたらしている。いわば通貨戦争とも呼ぶべきものが起きている。

世界的な不均衡是正のカギを握るのは、アメリカと中国。とりわけ、これまで高い生産能力を輸出に向けてきた中国は、内需主導型へと方向転換してほしいところなのだが、中国にそれができるかどうか。

・<日本経済の展望> 輸出の低迷。景気刺激策(エコカー補助金、エコポイント、地デジ切り替え)の反動減のあらわれ(今の需要は「先食い」でしかなく、刺激策終了後は大幅に落ち込む)。内需回復力が脆弱なまま。ということで、当面は足踏み状態が続く見通し。7月以降は、個人消費の減少を主な原因として、実質GDPが大きめのマイナス成長となる。2011年度全体で見ても、実質GDP成長率はプラス0.2%(かぎりなくゼロ)。

・<日本経済の構造問題:失われた20年をひきずる日本経済> 分配構造がゆがんだまま、産業構造もゆがんだまま、成長産業が不在、日本型ビジネスモデルが疲弊。少子高齢化を勘案すれば、医療・介護・健康・保育・教育分野の成長余地は大きいはずだが、強い参入規制があって、成長を阻害している。現在の日本は、貯蓄によってなんとか黒字を保っているが、家計貯蓄率が低下し、民間貯蓄も減少していけば、10年以内に経常黒字が消滅する可能性が高い(=このままのペースでいけば、あと数年で貯蓄を食いつぶして日本経済は破綻する?!)

・<日本経済の政策課題> 政府が6月に策定した「新成長戦略」。戦略5分野として以下のものがある。1.インフラ関連・システム輸出(原子力、水、鉄道など) 2.環境・エネルギー課題解決産業(スマートグリッド、次世代自動車など) 3.医療・介護・健康・子育てサービス 4.文化産業立国(ファッション、コンテンツ、食、観光など) 5.先端分野(ロボット、宇宙など)。

この政策に異論はないが、そもそも民主党政権の運営能力、調整能力に疑問が残る。政策の縦割り構造を打破できなければ、新分野の創出は理想だおれになる。 

財政健全化のためには、徹底した歳出の効率化と、最低でも名目3%、実質2%の成長を維持して自然増収を確保する必要がある。その条件が満たされても消費税を10%引き上げる必要がある。

格差の固定化による人材の劣化ばかりか、現場でも人材の質の劣化が深刻になっている。若年層を中心に社会全体が、内向き・下向き・後ろ向き志向になっていることも問題。女性の活用が進まないことも、人材の高度活用を妨げる一因。

・<日本経済再生への道:ローカルパワーによる地域経済の活性化> 日本経済再生のためには地域経済の再活性化が不可欠。東京都も地盤沈下している。中央政府の支援を当てにせず、横並びの発想から脱却して、ダイレクトに世界を相手にするようなやり方もあっていい。山形でおこなわれているグリーンツーリズムなど、よい例。

……と膨大なデータをもとに、さくさくすっきりと、日本経済の分析と今後の課題を聴かせていただいたのであった。異論の余地のない事実だけを厳然とつきつけられると、ああ、2011年も暗そうだな、で気持ちが沈んでしまうのだが、よくよくこの事実を見つめるうちに、それで「流してしまう」わけにはいかんな、という思いがひしひしとこみあげてきた。「そのうち誰かがなんとかしてくれるだろう」とこのまま流されていては、ホントに数年で日本は非常事態に陥る。人も社会も、「変わろう」「変らなくては」「変えなくては」と口では言い続けているが、実際に変わろうとすると、足をひっぱる周囲の圧力に負けたりして、現実は変わらないまま。とりわけ日本は、ぎりぎりの非常事態にすとんと落ちて、切羽詰まった事態にならないと、本気で変われないのではないかとすら思う(第二次世界大戦後のように)。

委員の北川高嗣先生(筑波大学大学院教授)から、少し希望の光が見える道の示唆あり。現在、インターネットによって、世界中の40億の人が作る世界が、すでに存在している。成長を阻む要因になっているゾンビを取り除くことが現在の産業構造(とりわけ農・商工業分野において)の課題でもあるが、インターネットを使って、ゾンビをすり抜け、ダイレクトにマーケットにつながる方法がいくらでもある! マーケットにダイレクトにチャンネルを合わせることで、中間のややこしい構造や足をひっぱるゾンビの阻害をすり抜けて、いきなり高利益を上げられる時代なのである。その意味では、現在は人類史始まって以来の黄金期でもある。これを理解している人達でダイレクトなチャンネルを作っていくことは可能ではないか、と。

狭い周囲に遠慮してゆで蛙となるか、外に目を見開いて黄金期のヒーローとなるか。選択と決心と行動力が、問われている。

 

 

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2010年9月14日 (火)

日本は大きな国? 小さな国?

宮内淑子さんオーガナイズの「次世代産業ナビゲーターズフォーラム」に参加する。第121回になるこの日の講演は、外務省 官房長、木寺昌人さんによる「日本の外交力」。

日本は大きな国か、小さな国か?という問題にはじまり、日本の外交実施体制の実態、外交手段としてのODAの実績、当面の外交課題、普天間基地の移転問題、岡田外務大臣の外交の特色、などなど、案外メディアでは報じられていない日本の外交の生々しい実態を、具体的なエピソードを交えながらわかりやすくお話いただいた。全部記録しようとすると膨大な分量になるので、例によって、とりわけ強く印象に残った話を、以下ランダムにメモ。

☆日本は大きな国か、小さな国か? と聞かれると多くの日本人は「小さな国」と答えるだろう。だが、GDP(Gross Domestic Product)という経済指標を基準に見ると、日本は世界ランキングにおいて、アメリカに次ぐ第2位。近々中国に抜かれて3位になるとしても、ランキング19位のスイスのGDPは日本の10分の1、68位のルクセンブルグで100分の1、142位のルワンダでは1000分の1である。つまり世界の多くの国々から見れば、日本は経済大国。この内外のイメージギャップをますます拡大させているのが、日本人独特の「謙遜」の美徳。日本は自国を過小評価し続けている。世界のほとんどの国は、日本を大国として見ている、と認識すべき。

☆ODA(Official Development Assistance=政府開発援助)の実績。ODAとは、政府または政府の実施機関が、開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上に役立つために行う資金・技術提供による協力のこと。

ODAはGNI(国民総所得)の0.7%を目標とする、という合意があるのだが、その背景には、途上国を支援することによって、テロの原因となるような経済的貧困を世界からなくし、紛争地域の状況を向上させていこうという考え方がある。

日本は軍事的援助はできないけれども、外交手段としてのODAで実績を上げている。たとえば、アフガニスタンでは学校やクリニック、道路などを多数つくるという「目に見える」援助をすることで、現地の人から感謝されている。アフリカでは、現地の人々の希望を聞き、人々と対話をしながら支援するという日本式支援を続け、好感をもって受け入れられている。実はこれは特殊なこと。たとえば中国が援助をおこなうと、援助が終わってもそこに中国人コミュニティが居残る・・・という現象が起きたりする。

↑このような「良い成果」を日本のマスメディアは報道しない。失敗のことは過大に宣伝するが、褒められるべき良い貢献をしても、まったく記事にならない(この問題に関しては、かつてこのフォーラムで講演してくださった、当時の財務省事務次官、杉本氏も同様のことを嘆いていた。メディアに携わる人間は、スキャンダルばっかりかぎまわってないで、同胞の善き行いやすばらしい成果をもっと誇り、褒めていいのではないか。それが結局めぐりめぐって自国、ひいては自分の利益になる)。

☆外交力は、現場に立つ個人の人間力でもある。現在の外務大臣、岡田克也氏は、まじめで曲ったことが大嫌い。正論を、ストレートに、しぶとく主張する粘り強さをもつ。頑として主張を曲げないことで仏外相や中国外交部長と対立したこともある(正しさをとことん貫く姿勢を保ち続ける岡田さんは、あっぱれ、と感心)。

☆中国が「核心的利益」という言葉を使ったら、要注意。誰も異論を言えないような雰囲気が流れる。

☆9月は内政と外交が連動する重要な月。2006年9月26日には安倍内閣発足、同日、国連総会で大島国連大使がスピーチ。2007年9月26日には福田内閣発足、28日には国連総会で高村外務大臣がスピーチ。2008年9月24日には麻生内閣発足、25日に国連総会で麻生総理スピーチ。2009年9月16日には鳩山内閣発足、24日には国連総会で鳩山総理スピーチ。そして今年の9月も・・・。

☆最近は、日本バッシングならぬ、日本パッシング(とばし)が感じられることさえあるが、その背景のひとつには、日本から世界へ向けての情報発信が少ないこともある。重要な国際会議に日本人が行かない。ハーバード大にもスタンフォード大にも日本人学生がいない(行きたがらない)。

締めくくりに、「外務省は眠らない」ということば。木寺さんの携帯も24時間オンとのことである。「外交」と聞くと、形式ばった抽象的なイメージしか浮かばないところもあったのだが、数多くの現場のエピソードを通してうっすらと感じたのは、外交の基本は、血が通い、感情をもつ人間が、同じ(だけれど違う文化を背負う)人間といかにコネクトしていくかという問題でもある、ということ。

世界の中の日本の位置付けを広い視点からあらためて考えさせられた、貴重な時間だった。感謝。

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2010年7月15日 (木)

100%循環型の未来は可能か?

13日(火)に参加した、第120回次世代産業ナビゲーターズフォーラム@霞が関エキスパートクラブのメモ。情報量がたっぷりと多く、充実したフォーラムで、すべてを記録しておこうとするといつまでたっても書き終わらないので、とりわけ心に残ったことを備忘録まで。

この日の講演は、帝人株式会社取締役会長の長島徹さん。テーマは「帝人Gのものごとづくり」で、講演後、メンバー全員でテイジン未来スタジオの視察をおこない、お話の内容を裏付ける最先端のモノたちを見る。

恥ずかしながら、帝人と聞いて、ポリエステル繊維のイメージしか思い浮かばなかったのだが、いま、生活のあらゆる分野に帝人の最先端テクノロジーを用いた製品があることを知って、驚いた。

☆まずは、「グリーンケミストリー」研究開発の成果としての、炭素繊維。これを使った電気自動車やエアバスが開発されている。

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炭素繊維「テナックス」は鉄の五分の一の軽さ。展示されていた電気自動車はこれをコア部分に使用した車だが、437キログラムという超軽量である。

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この炭素繊維を用いた「レクサスLFA」が、近いうちに(?)、3750万円で発売される予定という。

鉄やアルミなどの金属に代わり、エコロジカルな繊維が車や飛行機のボディになる、ということじたいに、ちょっと興奮をおぼえる。

☆情報やエレクトロニクスの最先端の領域でも、帝人の製品が。3D画面を見るためのメガネ、パスモやスイカの中に入っている高機能フィルム、タッチパネルに使われている透明導電性フィルムも。

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上の写真は、黒い中央部分にパソコンをおくだけでコードレスでインターネットにつながる、というテーブル。会議がものすごくスマートになりそうだ。

☆ヘルスケア製品。睡眠時無呼吸症候群を治療するための機器をはじめとする、在宅医療のための製品や治療薬を展開している。

2008年以降の不況で、受けた打撃がもっとも少なかったのがこの領域、と聞いて、なるほど、と。

☆そして数多くの受賞歴を誇る、エコサークルのシステム。衣料やペットボトルを、本来のポリエステル素材に戻し、また別の衣類へとリサイクルする。

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常に素材のポリエステルに戻しては、そこから新しく作り直す、という永久循環型のシステムである。これだとゴミを出さず、二酸化炭素の排出量は77%削減され、エネルギー使用量は84%減少するという。

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リサイクルされた繊維でつくられたエコスーツも展示されていた。しわになりにくいので、出張などには便利かも。

『モードとエロスと資本』のなかでふれた、「ロイヤルチエ」のエコファーに用いられていたのが、ほかならぬこの帝人のリサイクル繊維であった、と知ってちょっとうれしくなる。

資源が枯渇し、ゴミが増える一方の地球環境のなかで、このシステムを生かしたものづくりは、未来に希望を感じさせる「よき循環」の一例とも見える。

テクノロジーがここまで進化していたことを目の当たりにして、驚きと感動をおぼえる。これをいかに生かして、グローバル化と国内雇用を推し進められるような産業構造を作り上げていくか。産業界と学界と官公庁が一体となったビジネス・イノベーションが今後の課題、と長島さんは結ぶ。各界の垣根を取り払い、その間を、人も思いもスムーズに循環させることも大切かな、と思う。

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2010年5月12日 (水)

「迷ったら、やる」

視察を終えたあと、代表取締役グループ代表、南部靖之さんのご講演。

表向きのテーマは「これからの働き方はどうなるのか」ということであったのだが、話題はじつに多岐にわたった。アーバンファームをつくるまでにいたった具体的な経緯、ご自身が受けた教育の話やご両親のこと、アメリカの教育観との比較に基づいた今後の教育の話、現在の日本の労働問題やそれを解決するために実行していること、仕事を続ける上での哲学、などなどが、お笑いをまじえ(関西の方であるなあ)、大きな身ぶり手ぶりで、パワーポイントなんぞ一切なしの話術だけで、ドラマティックに楽しげに語られる。笑えるばかりでなく、内容もぎっしり充実している。何をどこから書いていいのかわからないくらいの圧倒的な情報量だったのだが、とりわけ印象的だったことがらを、以下、ランダムにメモ。

★座右の銘は、「迷ったら、やる」。ビル内で稲作をするというプロジェクトも、最初はだれもが「できっこない」と反対した。でも、やろうと思って、「なぜ、できないのか?」を調査した。その分野のエラい先生が、1000ページにわたり、「できない理由」をぎっしり書いた論文を書いてくれた。ところが、あるとき、「農業従事者」の方に「これだけ資金を投資して環境を整えても、ビル内で米が実らないのはなんでかね?」と立ち話で聞いてみたら、3つ、理由を教えてくれた。

  1.雨が降らん (水分の問題じゃない。雨があたった瞬間、空気が稲に入ることが大事なのだ。だから、空気を送り込め)

  2.風が吹かん (嵐や台風も必要だ。一方からじゃなく、あっちからもこっちからも。強風を双方向から交互に毎日、一週間送りこめ)

  3.あんた、関西人で、ケチやろ (ぎっしり苗を埋め込むな。30センチ間隔をとるべきところ、あと15センチほど広げ、せめて40センチほどに、間隔を広げたらいい)

この3つの助言が、突破口になって、実現したという。立派な学者先生の1000ページの論文より、実際の農業従事者の3つの助言。

★丸の内と大手町には、ベランダのあるビルはない。窓も開けられない。でも、ベランダがほしかったし、窓も開けたかった。だから、地道に、ひとつひとつ、交渉を重ねていった。

ベランダに関しては、「ベランダと思わずに、でこぼこの壁やと思うてくれ」ということで、表向きは「でこぼこの壁」ということになっているベランダをつくることに成功。窓に関しても、交渉を重ねに重ね、結果、窓も開いてベランダもある、という思い通りの環境を実現。

当初ムリだと言われた理想が実現したばかりか、ビルを視察した大臣が「補助金を出そう」とまで言ってくれ、東京都からも補助金が出ることになった。

★子供のころ、大きなお花畑の中に入りたい、という夢があった。その夢を実現すべく、現在、ポピーの花畑をつくってその上にガラスを張り、そのガラスの上で音楽会を開くというプロジェクトを計画中。お花畑の中の音楽会、というわけである。多くの人の「子供のころの夢」だからこそ、実現したら多大なPR効果も発揮する。

★ご両親は、南部さんに、価値の多様性を教え込んだ。算数が100点、ピアノがうまい、絵が上手、これらはすべて同じ価値がある、と。南部さんは絵を描くのが好きだった。お母さまは、南部さんの絵を、10円で買ってくれた。算数で100点をとるお兄様の絵は買わないのに。「勉強で負けても、絵で勝つことができるんや」。この経験が、大きくなって、勇気に変わった。

★高校時代、数学の点数があまりにもヒドイので恥ずかしがっていたら、お父様が一喝。「試験の点数が悪いのは、恥ではない。人に迷惑をかけたときが、恥なんや」

★経営者とは、お金を儲ける人。創業者とは、お金を使う人。(経営者は多いが、創業者は、少ない。)

こうしたい、こうすべき、と思ったら、他人を批判したりせずにまずは自分で実行する。そんな姿勢が南部さんの道を切り開いてきたということがわかるエピソードは、ほかにもたくさん紹介されたのだが、なかでも印象的だったのが、若い人たちの雇用問題に関し、鳩山首相に手紙(というか大時代的な筆字の巻き物!)を書き送ったというお話。

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「人は国家なり」とか「大志鳳翔」ということばが太字になっている。鳩山さんがすぐに会ってくれたというオチにも感動する。ほかにも経済界の重鎮50人ほどにこのような手紙を送ったという。「もらった方は、果たし状かと思ってどきっとする」って、そりゃあこの迫力にはびっくりする(笑)。

実際、パソナは、就職できなかった大学生2200人ほどを一時雇用した。研修をおこない、他社への就職を支援する。背景には、若者の履歴書に空白を作らせない、という南部さんの熱い思いがある。うち、400人ぐらい就職先が決まったそうである。

メンバーから、質問が出る。「『迷ったら、やる』といっても、誰もやらないようなことをやろうとするとき、失敗がコワいということはないですか?」、と。それに対し、「答えはこの本の中にある!」とおみやげに本をもらったので(笑)、帰途、読んでみた(竹中平蔵・南部靖之・共編『これから「働き方」はどうなるのか』PHP)。以下、要約して抜粋。

・まずは思い込み。自分はできる、必ず成功すると信じ続ける。それが決意に、夢に、志に、変わる。

・そして、心構え。自分の夢や志を周囲に表明する。すると必要な情報が入ってくるようになる。

・最後に、出会い。縁を大切にすることで、道が開け、夢が現実のものとなっていく。

自ら発信⇒周囲に人や情報が集まる⇒縁が運に変わる⇒夢が実現。

強く思い込み、発信し続け、縁を大切にし、運をつかむ。心の底から信じていれば、コワくない、と。その過程には並みならぬ粘り強さや常識破りの楽観も必要、という生きた模範例を見せていただき、エネルギーと情熱のおすそ分けをいただいた。感謝!

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2010年5月11日 (火)

「第四次産業」としての農業

第118回次世代産業ナビゲーターズフォーラムに参加@大手町パソナグループ本部。

パソナ本社の「アーバンファーム」を視察したのち、ファームの採れたて野菜を使ったサラダをいただき、社長の南部靖之氏の講演(「これから働き方はどうなるのか」)を聴くというプログラム。

パソナ本社に一歩足を踏み入れただけで、そこは別世界。一面の稲が迎えてくれる。

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室温は28度に保たれ、5万ルクスの光が照射され、そよ風も吹いて、水も循環している。ビルの中に三期作(!)ができる環境が整えられているのだ。側面には背の高いロシアひまわり。

「お稲様」を育てる装置にひととおり驚いた後、なんのために都心のビル内で稲作??という疑問が当然わきおこるのだが、話を伺ううちに、「働く人の健康」「第四次産業としての農業」「自然との共存」をテーマにする会社の、象徴のような存在でもあると感じる。

1階から8階までのフロアのいたるところに、植物が育てられている。フロア一面のマーガレットもあれば、

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廊下にはパプリカ、天井にはゴーヤ、引き出しの中にまでスプラウト。ディズニーランドの「隠れミッキー」のように、「こんなところにまで!」と驚くような場所に植物がある。

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社員の一人一人が交替で水遣りをするそうだ。仕事とは関係のない作業をみんなでやることで、コミュニケーションも活発化する。

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オフィスの片隅にトマトがなっている。トマトの成長を日々、眺めていると、「自分もがんばろう」という気になれるそうである。

自然との共生、ということばから連想しがちだったのは、大きな自然が最初にあって、そこに人間が入り込んで自然のシステムを壊すことなく生活していく・・・・・というようなイメージであったのだが、ここではそれがまったく逆になっていることがわかる。人間が仕事をする場所に、自然をもちこむ。人間が仕事をしながら、快適さを失わずにトマトや稲や花を育てていく、という姿勢が追求されている。

そのためには最先端のIT技術も駆使されねばならない。農業が「第四次産業」と位置付けられている理由にも納得。

「アーバンファーム」で育てられた野菜は、社内のカフェテリアなどでも提供される。とれたての野菜をいただいたが、やさしい歯触り。

Pasona_salad

「地産地消」ならぬ、「自産自消」。移動途中での野菜のビタミンの損失も最小限に抑えられる。

「アーバンファーム」の壮観をひとめみようと、各国から毎日のように視察団がお見えになるそうである。こちらから出向かなくても、人がどんどんやってくる。営業マンを一万人雇うほどの価値がある、とは南部社長のことば。プロジェクトにかかる費用が「戦略費用」に分類される、という広報担当者の説明を聞いて、なるほど、と。

最初はだれもが「ムリだ。」と言ったというこのプロジェクトを実現させてしまった南部氏は、やはりとてつもないエネルギーと情熱の持ち主であった。その講演の概要は明日のブログで。

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2010年3月17日 (水)

「本当に<腹が減った>という思いをしたことはあるか」

先週、11日(木)に宮内淑子さん主催の「21世紀ナヴィゲーターズ・コミッティー」に参加したときのメモ。このコミッティーはなんと17年目になるという。私はほんの数回参加させていただいた程度だが、さまざまなフィールドの方々が、それぞれの立場から日本の未来をよくするための提言やディスカッションをおこない、その成果をそれぞれのフィールドへともちかえって次へとつないでいく、とても刺激的なコラボレーションである。

今回のテーマは「未来への投資」、参加ナヴィゲーターは、登山家で医師の今井通子さん、目黒雅叙園社長の梶明彦さん、CGアーティストの河口洋一郎さん、筑波大大学院教授の北川高嗣さん、東大大学院教授の黒田玲子さん、シーエーシー社長の島田俊夫さん、帝人会長の長島徹さん、東大大学院教授の廣瀬通孝さん、デザイナーの山本寛斎さん、文部科学省・宇宙開発委員会委員長の池上徹彦さん、そして兵庫県の井戸敏三知事である。

幅広い視野から最新の情報や興味深い考え方のシャワーを浴び、しなやかで強いエネルギーのおすそ分けをいただいた。面白いお話の数々すべてを書ききろうとするときりがないので、とりわけ、心に残ったことばを記しておきます(一言一句厳密に正確というわけではなく、こういうことをお話になった・・・という、あくまで私の心の中に書きとめられたメモである)。

○最先端CGを使って、故郷である種子島の生物からインスピレーションを得た白日夢のようなアートを作りだしている河口洋一郎さん。「モノづくりの限界に挑戦したい。一点ものでいいんだ。その一点の密度を、できるだけ複雑に高めていくことで、限界に挑みたい。あとは勝手にコピーしてもらえればいいんだ」

ココ・シャネルの、コピー商品に対する態度を連想した。シャネルの服はコピーされまくりで、にせシャネルがあとをたたなかったのだが、彼女は平然としていた。精緻をきわめたオリジナルは、コピーされればされるほど、その価値を高めるのだ、という絶対の自信に支えられた発想だった。あとに続く人が「河口風」をまねしても、限界をきわめたオリジナルには到底、及ばない。逆に模倣されることでオリジナルの価値がいっそう高まる。模倣されることは、本物であれば、警戒するに及ばないのだと実感。「本物である」ことがいちばん、難しいんだけど(笑)。

○デザイナーとしてばかりかプロデューサーとしてもエネルギッシュに活躍する山本寛斎さん。「これまでの成功ルールがまったく適用できない時代がくるだろう」。

「日本人はとてもすばらしい資質をもっているのに、<奇>と<異>を嫌い、グループの中で安心するというのが、問題」。

「ほんとうに<腹が減った>という思いをしたことはあるか。そんな経験をした人はわかると思うが、今の不況なんて、たいしたことないんだよ。本当に腹が減ったら、外へ出ていって勝負するしかない。日本の力を世界に認めさせたパイオニア的なデザイナーたちは、みんな手弁当で世界へ出て行て、成功を勝ち取ってきた。今のデザイナーたちは政府の援助を得ていながら、外へ出ていこうというマインドがない。安心できる集団のなかで認められればいい、と思っているのではないか。まずはそこから改めなくては」

「デザイナー同士で互いにコピーはできる。でもユニクロの服はコピーできない。1000円のジーンズなんて、どうしたってまねできない」

寛斎さんの名刺の裏には、赤地に○(日の丸の逆パターン)のスタイリッシュな絵柄を背景に、「上を向こう、日本。」と書いてある。周囲を元気にする波動を感じる、とてもパワフルな方である。

○黒田玲子さん。「今の日本人は傷つかないように、傷つかないように・・・ということばかり気にしている。誰かが何かささいなことを言った、というだけでバッシングする、という空気があるからなのだが、これは異様。世界にはもっと生きるか死ぬかのレベルでハングリーに、本気で闘っている人たちのほうが大勢いて、これからはそういう人たちと一緒にやっていかなくてはならない。グローバルな時代における日本の立ち位置をしっかりわきまえた、時代意識をもつ人を、育てていかなくてはならない」

○今井通子さん。「奇人変人がいないと、未来はない。ほんとうは、日本人にはとても能力がある。若い人は、勝つことのできるコンテンツを送り出す能力をもっている。なのに、<よしましょうよ>と思う。トラブルが起きるのがいやだから、と上や周囲が予防的に抑えてしまう。成功した日本人は、<目立たないようにすること>が成功の秘訣という。目立っちゃいけない、と相手の顔色ばかりうかがうようなマインドは、アジアには受けるかもしれないが、これからの世界で勝負するにはそれを克服するようなリーダーシップの養成も必要」

ほかにも、宝物のようなことばをたくさんうかがったのだが、すべて書ききれなくてすみません。多くの方が、日本人は能力が高く、世界でリーダーシップをとれるコンテンツを送り出す力はあるのに、グローバルに出ていくためのマインドのところで互いに足を引っ張り合っているようなところがある、と指摘していたのが印象的だった。

メディアに携わる人も、ささいなことでの有名人バッシングに精を出したり、「日本はもうダメだ、たいへんな時代がくる」とネガティブなことばかり書いている場合ではないのではないか。外へ出て頑張ろうとしている日本人をもっとほめて、励まして、全体の士気をひっぱりあげるほどのムードを、もっと本気で作ろうとしてもよいのではないかと思う。「ほんとうに<腹が減った>という思い」を、(他国に比べて)まだ多くの人がしていない、今のうちに。

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2009年12月 3日 (木)

「人生は、息をのんだ瞬間の数で計られる」

次世代産業ナビゲーターズのメンバーのひとり、服部崇さんから『APECの素顔』(幻冬舎ルネッサンス)をお送りいただき、さっそく読む。服部さんは経済産業省の、いわゆる「官僚」さんなのだが、巷の官僚のイメージ(実像を知らないでいうのもなんだが)をこころよく裏切る、さわやか系好青年である(世間の年齢基準では中年かもしれないが)。大学の同じ学部の後輩でもある。

この本は、服部さんがシンガポールにあるAPEC(アジア太平洋経済協力)事務所に勤務していた、2005年から2008年までの3年間の個人的な記録である。

公的文書ではない。かといって、個人的な思いの垂れ流しでもない。APECの活動が、「公人」であり時に「一個人」でもある服部さんの視点から、具体的に描かれる。公的文書的な硬さはやや残るのものの、APECの活動記録の合間合間に、個人としての熱い思いや考えやつぶやきが、ちらりちらりとはさまれる。

個の出し方が控えめである分、「APECっていう組織は、具体的にどのような活動をしているのか?」ということを知りたい一般読者にとっては、いやみなく読み進めることができるAPEC入門書ともなろう。政治・経済に疎い私でも、APECの活動に親しみを感じることができ、「アジア太平洋地域」と一口にいっても圧倒的な多様性があることを思い知らされた。ただ、一物書きとしては、どうせ個人の記録として書くなら、もっと遠慮なく「官僚の胸の内」をセキララに書いてもらってもよかったのに、と(笑)。

知らなかったことがずいぶんあった。以下、とくに勉強になったことをメモ。

・APECでは、参加国・地域を、「エコノミー」と呼ぶ。「国」じゃなくて、「エコノミー」!

・APEC事務局員もチャリティをする。事務局員が、それぞれがもちよった品をガレージセールで販売してお金を集め、それをベトナムの孤児院に寄付したというエピソードにはちょっとじ~んときた。

・ペルーのカソリック教会のマリア像の形状についての話。マリア像はドレスのスカートを大きく左右に広げて、二等辺三角形の形になっていて、さらにマリアの頭上に後光が差しているかのようにつくられているそうだ。これは、「かつてアンデスの山々を崇拝し太陽を拝んだインディオたち被征服民に、カソリック教会のマリア像を礼拝させるために編み出されたもの」であるらしい。

・熱帯のシンガポールでもマラソン大会がある! 気温28度、湿度85度だ。走るか?同僚のアドバイス、として書かれていた三箇条が、ウケた。「1.最初からとばさないで、ゆっくり走ること 2.途中で走るのをやめないこと 3.美女の後を追うようにすること」。

「美女かどうかは後ろからはわからないではないか」という服部さんのぼやきがおかしい。

・オーストラリアのケアンズのナイトマーケットで見かけたステッカーに書いてあったことば、として引用されていたフレーズ。『人生は息をした数ではなく、息をのんだ瞬間の数で計られる(Life is not measured by the number of breath you take, but the moments that take your breath away)」。

この本は服部さんにとっては、APECという大きな組織における波乱万丈の仕事を続ける中での、「息をのんだ瞬間」の記録、という意味合いもあるのかもしれない。

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2009年11月10日 (火)

あらゆる側面が、コミュニケーションである

第113回次世代産業ナビゲーターズフォーラム@目黒雅叙園。

前半は、目黒雅叙園の名物「百段階段」と、その場を舞台に繰り広げられる、「華道家 カリヤザキショウゴの世界」特別展の鑑賞(←カリヤザキが変換できず、失礼御寛恕)。江戸バロックと呼ぶべきか、和製ベルサイユ宮殿と呼ぶべきか、夢を見ているような、この世のものならぬ妖しくて大胆華麗な世界を堪能する。「百段階段」が、厳密にいえば99段であることもはじめて知った。謙虚な気持ちで、あえて一段少なくしているのだという。なんて日本人的。

その後、日本コカ・コーラ株式会社 取締役会長の魚谷雅彦さんによる講演「コカ・コーラにおけるブランド価値創造のマーケティング」。

ブランド価値において9年連続世界第一位を保っているグローバル企業の、日本法人におけるトップだけあって、プレゼンテーションがすばらしくうまい。関西アクセントをちょっとまじえて(同志社卒)、笑いをきちんととりながら、伝えたいことはきっちり伝えて聴衆の心をつかむ。ほんとうに楽しい時間だった。赤いネクタイ&ポケットチーフと白いシャツ、という「コカ・コーラ・カラー」のファッションもとても似合っていらして、全身から「ザ・コカ・コーラ」のオーラを放つ魚谷会長のプレゼンスそのものにも感動をおぼえる。(ちなみにブランド価値第2位はIBM、第3位はマイクロソフトだそうである)

おもしろくためになるエピソードの連続で、メモも20ページにわたってぎっしり書いたのだが。すべて書ききれないので、とりわけ、心に残ったエッセンスだけをここに記す。

●ブランド価値は、イントリンシック(基本的)なものとエクストリンシック(外部依存的)なものから成る。後者はイメージ、満足、気持ち、共感にかかわる。こっちが時代とともに変化していくことが大切。

●ブランド価値を創出していくために、Everything Communicatesという考え方にのっとった戦略がある。経営者、社員、売り場、広報、ネーミング、メディア、あらゆる側面が、ブランドとして統一された思いを顧客に対してクリアに伝達するために活かされるべき。

●ブランドとは、アイデンティティ+企業から消費者へのコミットメント⇒消費者のブランド体験。その積み重ねが価値をつくる。

●マーケティング一番手の法則。世界で一番高い山、世界で初めて大西洋を横断した人の名前、は誰もが知っているけれど、二番目はどんなにすばらしくても記憶されない。

●Think Local, Act Local.  競合相手を蹴落とし、競合相手に何が何でも勝つ、というゴーマンな考え方には限界と落とし穴が必ず待っている。それよりも、謙虚になって、いかに現地の人々との共存、共栄していくかを考えたほうが、利益もブランド価値も上がる。

●常に一番手でいられる秘訣は、「ハツカネズミ」。走り続け、過去の成功にあぐらをかかず、とにかく常に変革のサイクルをまわし続けること。

●「あと味」はきわめて日本的な概念である。aftertasteととりあえず訳しているが、こういう発想は英語にはなく、日本の食文化の繊細さをつたえる言葉。

いろいろなものや人の「ブランド価値」を考えるうえでも、とても参考になる考え方が多かった。聴き終えての質問タイムに、「サンタクロースの衣装を赤白にしちゃったのは、コカ・コーラさんということになっているのですが、いったい具体的にどうやって赤白にしたんですか?」と聞いてみたかったが、遠慮。(う~ん、でも聞きたかった・・・)。

たまたま隣に座られた方が、「ミケタ億」(←初めて耳にする言葉であった)という言葉をさらりと語ってイヤミのない40代前半のすてきなIT社長さんで、なんと渋くキモノをお召しであった。スーツを着ないときは、「ジーンズか、キモノか」だという。男のキモノ。ひとつ持っているだけで、場に与えるインパクトも強く、おしゃれで賢い選択だなあ、と感心。30代~40代の男のキモノ、もっと普及してもいいと思う。

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