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2009年5月 3日 (日)

浅田次郎さんのエッセイ + 知の三高峰

浅田次郎さんは小説も巧いですがエッセイも熟練の極みの技を見せてくれます。「ま、いっか。」読了しました。

日経新聞のコラムの連載をはじめたころ(もう10年近くも前になりますが)、毎週毎週どうやって読者を飽きさせずに書くんだ?!と不安と焦りでパニックになっていたときに大量に買い込んで読み込んだのが、ほかならぬ浅田さんのエッセイでした。

事実だけをストイックに描写して心情を伝える(というか、想像させる)。短い文章の積み重ねでリズムを生む。時折、おやぢっぽい「抜け」をつくる。まったく関係のなさそうな現象をさりげなくつなぐ。古今東西の文学のエッセンスになってきた普遍的テーマをそれとわからせずに骨格に入れる。常識や思い込みをひっくり返しながら、正論に落とし込む。全方位に気を配る。短いエッセイのなかにも一輪の花が咲いている(と感じさせる)。この人のエッセイから学んだことはほんとうに大きい。

で、新作の「ま、いっか。」は久しぶりに読んだ浅田さんのエッセイでしたが、円熟の度合いが深まったところに軽みも加わってすばらしく、拍手喝采すると同時に、私はこの10年でいったいどんな成長をしたのかとわが身を振り返って、ほとんど絶望すら覚えたのでした・・・。

仰ぐべき具体的目標があることは、すごく励みになり、とてつもなくありがたい。一方、そこに向かって登りはじめたとき、これほど時間と労力を費やしてもそこにたどりつくまでにはまだまだ遠大な距離がありすぎると知ることは、ものすごい自己嫌悪と絶望をもたらす。浅田次郎さんのエッセイのレベルは到達できたらうれしいなあという一目標でもあるが、あー、いつまでたってもその足元にも及ばない、と自覚して、がっくりする。

日経の連載を始めたころよりもさらに以前から、高く仰いでいた(今でも、だが)三大「知の高峰」もいる。荒俣宏さん、高山宏さん、鹿島茂さん(内二人は、なんと昨年以来、同じ大学同じ学部の「同僚」になった・・・・・・畏れ多すぎてとてもお近づきにはなれませんが)。仕事の質も量もずばぬけてすごいのはもちろんだが、このお三方に共通するのは、「<つなぐ>能力と技芸が図抜けていること」。

「専門分野」なんていう狭い領域も、時間も、空間も、飄々と超えて、まったく予想もしなかった複数のできごとや人物やモノやことばなどを、鮮やかにつないでみせる技。接点のなさそうな複数の現象が、どんどん掘っていくと実は巨大な地下水脈でつながっていたことを示してみせる力量。そんな驚きの世界を次々に大量に華麗に繰り広げる圧倒的なパワー。学問の醍醐味、というものを教えてくれる。

一読者としてはそういう成果に触れているだけで幸せなんですね。でも自分が(どんなにささやかなものであれ)なにか書き始めたときに、あのレベルが目指すべき高み(というか深み)、として常に脳裏にあるのである。なのに、どんなにがんばっても、その100000の1のレベルにも及ばない。これはキツイ。比べることじたいがそもそも間違ってはいるのだが、やはり、かなり打ちひしがれることでもある。

荒俣さんは平凡社に寝泊りして執筆をしていたという。とにかく時間とエネルギーをすべてそこに注ぎ込まないことには、誰もまねのできないすごい物は生まれないのかもしれない。ネイルサロンに行ったり、映画みたり、ショッピングしたり、ワインを飲んだりしているその時間にもっと勉強して書けよ、とも思うのだが、そういう「むだな」時間も私のギャル魂(?いい年して情けないことだが)の健康にとっては必要だったりする。それ以前に、主婦業や母親業にも、最優先事項としてエネルギーを注がねばならない。時間と力の使い方からして、知の高峰たちに追いつきたいなんて言えるレベルではない。

そんなこんなの諸事情と折り合いをつけつつ、できることをやっていくしかないのだが。

ってことで、今週の一本、ムルソー(ドメーヌ・ラトゥール・ジロー 2006)を開ける(おいっ、ですね。すいません)。この前から赤ワインの話ばっかり書いてるけど、日常ワインはだいたい白が多いんです。翌日残りにくいので。でも、特別の白、となればムルソーかモンラッシュですかね、やはり。実はムルソーを自分用に買ったのははじめて(おつかいもの用の白としては、とても喜んでもらえます)。厚みのある白のゴージャスな品格をずしりと感じつつ、がんばってもがんばっても巨匠たちの足元にも及ぶことができない自分の無能っぷりに、ちょっとだけ落ち込む。

☆☆☆(以下翌朝記)

二日酔い、というわけではないけど、ふわふわした感覚がしばらく残っていた(リポビタンDにビタミンCを入れて飲んだらすぐすっきりしましたが)。

やはり物書きとして読者に提示すべきは、一見無関係な表層の諸現象をつなぐ、巨大な地下水脈、と再確認した。あきらめずに、くさらずに、淡々と掘り続けてみることにする。


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