「悔い改めない」放蕩者の悲喜劇
カルロス・サウラ監督の「ドン・ジョヴァンニ」、4月公開に先駆けて一足早く見る機会をいただく。モーツアルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」が完成するまでのいきさつが、劇作家ダ・ポンテの放蕩生活と最後の恋を中心に、その師カサノヴァ、作曲家サリエリ、モーツアルトなどとの関係のなかに描かれる。
「サロメ」や「カルメン」を撮っているあのカルロス・サウラだから、きっちり正攻法できまじめ、隙はない。音楽は完璧、衣装やヘアメイクも時代考証に基づいて正確に再現しており、18世紀のヴェネツイア、ウィーンの情景を、ワンシーンワンシーン、重厚な絵画のように見せていく。18世紀好きには眼福である。男性も刺繍入りのジュストコール&ニーブリーチズで着飾り、女性はパニエでスカートを膨らませていた、ファッション史的にはもっとも華やかなロココ様式である。
「ドン・ジョヴァンニ」は音楽だけは知っていても、演じられるオペラとして通して観たことはなかったので(歌詞もイタリア語だとわからないし)、こういう話だったのか!という驚きも大きかった。喜劇のトーンが主調でありながら、ラスト、石像が「悔い改めよ」と迫ってくるところなど、けっこうシリアスで悲劇的。放蕩の末、悔い改めなんかせず、地獄の業火に焼かれるドン・ジョヴァンニの悲喜劇は、破綻しながらも筋が通っていて、かっこいい。
今の作家の方が逆にいろんなしめつけが大きいかもしれない。「悲劇か喜劇、どっちかにすっきりまとめてよ」というプロデューサーの注文や、「世間体も考えて最後は悔い改めさせてよ」というスポンサーのご意向が目に見えるようだ・・・。悲劇のなかに効果的に喜劇的要素を入れるとか、あるいはその逆とか、その程度のことは許されても、最終的には、観客がすっきり納得する形に無理なく収めなくてはならない。でも、そういうことを気にしていると、たぶん、小さくまとまりはするだろうけど、のちのちまで多くの人の心をざわつかせる「古典」にはならないのだろうな。
サウラはその複雑な古典を「劇中劇」のように撮り、それを書いたダ・ポンテの人生のほうは、フィールグッド効果がほしい現代人の心にもおさまりのよさそうなエンディングにまとめる。
破綻だらけで、悔い改めず地獄に堕ちる。現実にはあまり許されないからこそ、ちょっと憧れを誘われる。
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